伊賀襲撃前夜
織田からの使者、五関の待つ部屋に父が一人で戻ってきた。
「如何でしたか」
「成葉を織田家の側室として差し出します。五関殿、何とぞ宜しくお願い致す」
「そうですか」
五関は安堵の笑みを浮かべた。
「では、急いでお支度を。今夜中に成葉様を信長様の元にお連れしなければ、伊賀攻めは始まってしまいます」
「今、させております故、もう少しお待ちを」

成葉は自分の部屋に戻り、戦闘服を脱ぎ女性らしい着物に着替え始めた。
「…信長の側室」
ふと自分の口からついて出た言葉に成葉は、着替えの手が動かなくなり、目を閉じた。成葉の頬に涙がつたう。
目を開け大きく深呼吸をすると涙を拭い、成葉は急いで着替えを済ませた。
部屋を出ると侍女が待っていた。
「成葉様」
「どうした?」
「今、祥之介が裏の井戸の所に一人でおります」
「え?」
「私は、先に戻り成葉様のお支度はもう少しですのでお待ち下さいと、伝えて参ります」
そう言うと侍女は成葉を残し、先に父と五関の待つ部屋へと戻って行った。
「…」
成葉は少し躊躇したが、裏の井戸に向かった。
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