ホストの憂鬱
だけど、決して言えない。

それは…

みくさんは…

ガクさんにとって大事な客でしかないから。

ガクさんの中にみくさんへの愛情がないから。

俺はなにも言えない。

言えないんじゃなくて言わない。

もうぼくじゃないから。

もう、みくさんの友達じゃなく、流れ川のキョンだから。

みくさんは黙った俺を見て言った。

「このことガクには言わないで」

「また、消えるの?」

「消えないから、おろすの。わたしにもわかってる、ガクにとってわたしは色恋の客でしかないことぐらい」

そう言って、みくさんは店をでて行った。

ガクさんが来る時間になるまえに。

この時に気付いたんだ。

俺は飲み屋で大切なものが何かわからなくなっていることに。
< 119 / 134 >

この作品をシェア

pagetop