ホストの憂鬱
俺は知の表情を確認する。知の表情は俺に言った言葉とは裏腹に強張っていた。

なんだ、こいつも結局はビビってるじゃないか。

「よし、いくか」と俺は知に声をかけ、スーツのしわを確認して、胸にしまった履歴書の入った封筒を右手にもち、三階にあるムーンの事務所に向かった。

この胸の鼓動は緊張からなのか、裏の世界に飛び込むのを精神的に拒む、恐怖なのかはわからないところだ。

そして二階に到着して、事務所のある三階に差し掛かろうとしていた。

どっちがノックをするのだろうかと俺は頭の中で一人、妄想している。

だけど事務所のドアは開いていた。

「いらっしゃい」

それが俺達が裏の世界に入って聞いた初めての言葉だった。
< 15 / 134 >

この作品をシェア

pagetop