ホストの憂鬱
ぼうっと突っ立ている俺達を指示したのは意外にもなおさんではなく、二人の女性の一人だった。

カウンターの一番奥に座った彼女から罵声にも近い形で指示をうけた。

「おしぼりとチャームを用意しなさい」

俺はすかさずカウンターの下に置いてあるおしぼりを二つ手にとり、ビニールに入ったまんま、客に差し出した。

バンっと俺の頭を叩き、女性は言った。

「ここは喫茶店なの?違うでしょ、一人づつ、広げて手に渡すのいい?」

「はい」

「それから、渡すのにも順番があるの。一番、身分が高そうな人、男女なら男から、いい?」

「はい」

正直、言ってる意味は理解できたが、どちらが上の人間なのか理解できないと思った。

心の中を見透かしたかのように彼女は言った。

「まあ、はじめはわからないかも知れないけど、自然とわかるようになるから」

「はい」

俺は何故、なおさんが何も教えなかったか理解した。

そう、見て覚えるとか、そんな生易しいものじゃなく、失敗して、叱咤激励され覚えていくのだと。

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