ホストの憂鬱
俺と愛ちゃんはお互い打ち解けたのか、二人の話しはつきなかった。

おもに愛ちゃんのホステスになってからの失敗談が多かったが、愛ちゃんらしい失敗ばかりだった。

タバコに火をつけようとしたらマッチがしけていたとか、お客のコートを連れの人とちぐはぐに着せたとか、かわいい失敗だった。

なにより、二人がお腹をかかえて笑ったのは、俺の失敗。

つまり、テンタングラスにロックをついだ話しだった。

それも、自分の店のママにしたのだから、愛ちゃんはおおいに笑っていた。

楽しい時間はあっという間にすぎ、時計は深夜の一時になり、ボウイが店の閉店をつげにきた。

名残惜しいと思った。そしてなにより楽しいと思った。

だから俺は飲み屋の存在理由の一つをみつけることができたのだった。

また愛ちゃんに会いたいと。

俺は閉店を告げられたがどうしていいかわからずに席に座ったままだった。

ほどなくして、麗子ママが最後のお客を送り、戻ってきた。

「キョン、もう少し待ってて。すぐにかたずけるから」

「はい」

そこに愛ちゃんが話しに入ってきた。

「ママ、わたしも行きたいんですけど」

麗子ママは少し驚いた顔をしていた。

「いいよ」

そういうと麗子ママは俺の頭をくしゃくしゃとした。

何故、ママがこんな行動をとったのか、理解出来なかったが、優しい気持ちを感じることができた。
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