ホストの憂鬱
一章
俺のスーツのシワを愛は両手で引っ張り、なおすと「それじゃいこっか」と言った。

「うん。ぎりぎりだね」と俺は言った。

時計は七時半を少しまわっていた。ロビンさんたちが抜けたムーンは核を失った地球みたいで、そこに存在しているのかさえわからなくなっていた。

俺達はいつものように手を繋ぎ、堂々と流れ川を歩く。ホストとホステスのバカップルだ。

同棲を初めて一週間と少したった、五月の十三日。俺の誕生日だった。

「愛、今日は先に帰ってて」と俺がいうと、キョトンとした顔で俺を見つめた。

「今日は誕生日でしょ!絶対に行く」と怒ったように言った。
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