黒龍Ⅲ
…---
「…」
あたしの目に映るのは
今では"懐かしい"、
その言葉がよく似合う
獣牙倉庫。
「そろそろ時間だね」
あたしの隣に立つ伊織は
さっきまで震えていたのが嘘のように
凛として立っている。
…
あたしはというと、
ドキドキと
今にでも飛び出してしまいそうに
跳ねる心臓。
さっきとは比べものにならないほど
震える手足。
そして、
ぎゅーっと締め付けられ
熱をもった喉。
「大丈夫」
そんなあたしに
伊織は微笑んでくれる。
それだけで
少しだけ、ほんの少しだけ
心が軽くなったような気がして。
一歩、踏み出したあたしは
そっと扉に手を掛けた。