恋愛スキルライセンス
ギャラリーはいつの間にか廊下を埋め尽くしていた。
「け、圭一が、あんなに強いなんて…」
「なによー、物騒だよねー」
「いいぞー!もっとやれー!」
そんな声が、怒りが収まって冷静になった俺にようやく聞こえてきた。
ハッと気づいた俺の前には顔面を押さえてうずくまる彼がいた。
やりすぎたことに気づいた俺は、先に謝ろうと手をさしのべた。
そのとき、
「もうやめてー!」
俺と彼の間に入ったのは例の彼女だった。
「えっ…、いや、俺は…。」
俺は…、殴る気じゃなくて彼に謝ろうと…。
「ごめんなさい圭一君、それでも私はこの彼のことが好きなの!ごめんなさい!」
ギャラリー立ちがざわつく中、彼女が彼を心配そうに抱きしめている時、先生が向こうからきている時、
俺の中で時間が完全にストップしていた。
なんなんだ…、この事象は…。
まるでこれじゃあ、俺が悪役…?
「け、圭一くんですか!?あの人殴り倒すなんてすげえっす!」
そんな下っ端ヤンキーまで寄ってきているが、俺は明後日の方向よりももっと遠くを見つめるように静止した。
やがてそいつは保健室に連れられ、俺は指導室につれられ、それから日をまたいで保護者達で話して謝って、そんな日々は一瞬で流れていた。
指導室で叱られ反省をし、いつもと同じ笑顔、冷静な考え、暴力に対する反省など、俺らしくしっかりした。
けれども、俺はなにか希望を一つ無くした気がした。
俺のしていた恋ってなんだったんだろう…。彼女に対する願いってなんだったんだろう…。
そんなやるせない絶望にも似た虚無感が俺の中に新しく生まれてしまったのだった。