いちごみるくと恋わずらい

「……ありがとう。もうそっち向いてなくても大丈夫だよ」


水が止まった音を合図に声をかけてくれたらしく、未だ背を向けている卯月くんに躊躇いながらも声をかける。


卯月くんがゆっくり振り返って、目が合って。

ドキン、と鳴った心臓。


「……わざわざここまで連れてきてくれてありがとね」


ラウンジは人が多いからさすがに無理でも、トイレの洗面台でも十分だったけど、きっと人目を気にすると思ってここまで連れてきてくれたんだろうと思った。

……んだけど。

私の言葉に、卯月くんはバツが悪そうに視線を逸らした。


「……別に、はじめからこうするつもりだったから」

「え?」


はじめからこうするつもりだった……?


卯月くんの言葉の意味が分からず、思わず首をかしげる。


どういう意味、と聞こうと口を開いた瞬間、卯月くんが逸らしていた視線を私に戻してきて、その視線の強さに頭が真っ白になって、言葉なんてなにも出ていかない。


「ここに呼ぶつもりで教室に行ったんだよ」


そう言えば、名桜ちゃんは佐伯くんではなく私に対して卯月くんをお客さんだと教えてくれていた。

はじめから私に用事があったの?


……でも。

でも、用事ってなに?

私、卯月くんとはちゃんと話したの、昨日が初めてだよ。

わざわざこんな、ふたりきりで話すようなことなんて……。

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