ボディトーク
―――――
―――
数ヶ月後、陽希のモデル事務所の社長であるちぃさんから、私へのプレゼントと称し、A1サイズのパネルが送られてきた。

それはあの香水のポスターに使われた写真。

パネルの中の陽希はベッドに腰掛け、左膝を立てていた。

その瞳の奥には渇望が映り、香水の瓶に口付けを落としている。

肌蹴たシャツからは、あのキスマークを覗かせて。


私はそのパネルを寝室の壁に飾ったのだが、陽希はそれがお気に召さないらしく、さっきから文句ばかり言っている。

「ねぇ、美知佳さん。このパネル飾るの止めない?」

ベッドの上で寄り添いながら、陽希は嘆く。

「美知佳さんと抱き合いながら、自分の顔見るの嫌なんだけど」

「とても綺麗に撮れてると思うけれど?」

私は彼の鎖骨にそっとキスを落とす。

そこには勿論、あの痕は残っていない。


陽希の緩やかな腕の中で、ふと思う。

『テンプテーション』と名付けられたこの香水、名前通り誘惑の香りが、私をあんな風に駆り立てたのかも、なんてね。

陽希からプレゼントされた、枕元に飾ってあるこの香水の瓶を眺めていると、彼はおもむろに手を伸ばして香水の蓋を開けた。

そして私の胸元に、香水の付いた人差し指をそっと這わせる。

「……この香りの美知佳さん、俺ヤバい。」

陽希は私の頬を撫でた。

「記憶ってさ、嗅覚でも呼び覚まされると思わない?美知佳さん」

「確かに。……ハルに腹が立ったのも思い出したわ」

そっちなの?と陽希は言いながら、人の悪そうな笑みを浮かべて囁いた。

「俺のこと誘惑してよ、美知佳さん」

瞼にそっと優しく触れる陽希の唇が心地良くて、震えるような息が漏れた。

これじゃ、どちらが誘惑してるのか分らないけれど。

お互いがお互いを欲しているのだから仕方がない。

「また、お預けしてあげる。ハルワンコ」



今宵も貴方の腕の中で、醒めることのない夢を見よう。



--- End ---
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