ボディトーク
扉を開けると直ぐに受付ブース、その奥には厳重そうなシルバーの自動ドアがあった。

このドアにはセキュリティキーが必要らしく、佐竹氏の首にぶら下げたICカードを翳してようやく奥へ進むことが出来た。

建物の中は外観とは全く違い、小洒落た印象を受ける。

クリーム色に統一された壁で覆われた空間は、コーヒー豆みたいな深茶色のタイルの床と、所々に置かれている大きな観葉植物のグリーンが良く映えていた。

「こんなシークレットなところを、私みたいな部外者が見学しちゃっても良いんでしょうかね」

私がそう呟くと、佐竹氏は私の顔をマジマジと見つめる。

佐竹氏とヒールを履いた私の身長は大して変わらないので、見つめ合うこと数秒。

彼は私から視線を逸らすと、海よりも深い溜息を吐いた。

「もしかして並木さん、ここに呼ばれた理由(わけ)聞いていない?」

「う……え、理由って、やっぱり何かあるんですか?!」

私は陽希のお願いコールの強引さを思い出す。

「何て言うか……あいつなりに並木さんに操を立てたって言うか……まぁプロらしくないけど、陽希だからね」

は?ミサオを、た、立て?

……佐竹氏、何時代の人よ、って仰る意味が分かりませんが。

私は複数の疑問を頭に巡らせながら、スタジオの中へ入る佐竹氏の後に続いた。

中へ足を踏み込むと、先程陽希の声と共に漏れ聞こえたのと同じような、クラッシック音楽が流れていた。

そしてこの空間には、微かに芳しい甘い香りが拡がっている。
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