ボディトーク
私が想像していてより、広くて天井の高いスタジオの中には、濃い紫色から薄紫へのグラデーションを映したスクリーンをバックに、洞窟を彷彿とさせるような部屋のセットが組まれていた。

そのリアルなセットの中には、ベッドと1人掛けのソファ。

ベッドとソファの間にある小さなテーブルには、商品であろう香水(パルファム)の瓶がダイヤモンドのように輝いている。

……さすが大手化粧品メーカーの撮影。

セットの出来栄えも素晴らしいし、雑誌の撮影とでは予算だって桁違いなのは一目瞭然。


――そして眩いフラッシュの中に、陽希は居た。

彼の服装は、『中世ヨーロッパ騎士の休日』といったところだろうか。

白い袖のふっくらとしたブラウスに、茶色のパンツ、ジョッキーブーツのようなものを履いている。

そして肩にかかる髪は、緩く束ねてあった。

なんて耽美で……魅惑的。

まるで子供の頃に見たヴァンパイア映画宛ら、妖艶な雰囲気を醸し出した陽希がソファへ座り、ポージングを取る。

その姿は禍々しささえ感じるもので、私は立ち止まったまま、モデルとしての陽希に暫し魅入っていた。


並木さん、と佐竹氏から小さく声を掛けられた拍子に、陽希と目が合う。

陽希は私に気が付くと、それまで作っていた表情を緩めて手を振って来た。

「美知佳さ~ん、ごめんねぇ」

陽希の能天気な声がスタジオ内に響くと、スタッフ達の視線が一斉に私に突き刺さり、ギョッとした。

「あれっ?並木さん……だよね。ハルキの彼女って君か」

カメラを下げて、私の方へ首を捻るその顔には見覚えがあった。

「中根さん、ご無沙汰しております」

私は仕事モードの最敬礼で挨拶をする。
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