ボディトーク
壁の時計を見るとあと9分。

確かに今までキスマークを付けた経験なんて無いけれど。

私はまた、陽希の策略にまんまと乗せられている。

陽希の良いように丸め込まれて悔しいから、余裕をかました彼に一矢報いるべく、必死に考える。

私が意を決して陽希の胸に手を置いた途端、彼はクスクス笑いながらブラウスの中の手をするりと動かした。

「今度は強くやってね、美知佳さん」

ハルワンコめ……そのクスクス笑い止めてやるんだから。


陽希の腕が背中をなぞるたび、彼から甘くて何処か鼻腔を擽らせるような香りが漂ってくる。

「……いつものハルと違う香りって変な気分」

「美知佳さんからも同じ香りがするよ」

私は陽希の両脚の間に膝を立てて収まった。

先程までとは反対に私が陽希を見下ろす形になっても、彼はまだいたずらっ子みたいにニヤついている。

もう一度、彼の左の首筋に唇を押し付け、噛む様に吸い付いてやった。

陽希の口から少し痛そうな声が漏れたので、唇を離すとそこには立派なキスマークが現れた。

お次は、右の鎖骨だ。

ここからが本番。

私は身体の位置をずらし、陽希の片方の脚の上に跨がった。

そして彼の鎖骨へと唇を滑らせ、丁寧に何度も鎖骨の周りをなぞった。

私は今、彼を誘惑しているつもり。

上目使いに陽希の顔を覗いてみたが、彼は目を閉じていてその表情は窺えなかった。

ただ、彼のクスクス笑いを止めることは成功したらしい。

私が鎖骨のすぐ下の辺りをチュッと音を立てて吸うと、陽希の小さく呻く声が聞こえた。
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