ボディトーク
3つ目は左胸の内側。

右の鎖骨から左胸の周りまで、私は時間をかけてゆっくりと軽いキスを繰り返す。

ハルがもどかしく感じれば良いのに。

彼がいつも私をそうするように、翻弄したいのだ。

そっと引き締まった彼のウエストに手を伸ばすと、陽希の体がビクッと震えた。

私は得意な気分になって、笑いが込み上げてきた。

それを必死に抑えて、彼の胸元をペロリと舐め上げた後、思いっ切り最後のキスマークを作り上げた。

私は作業を終了すると、少しだけ息を弾ませて陽希に付けたキスマークを見つめる。

キスマークって独占欲の表れそのもの。

腹立ちまぎれに付け始めたはずのこの痕に、妙に興奮している自分に気付いて、恥ずかしさが蘇る。

「……これで満足した?」

私が小さい声で陽希に尋ねると、ようやく彼は瞼を開けて私を見つめる。

陽希は、いつしか撫でるのを止めていた私の背中を強く抱きしめ、性急で濃厚なキスを繰り返した。

角度を変えるそのたびに淫靡なキス音が漏れ、次第にマラソン後のような呼吸が静かな控室に響く。

もっと、もっと、深く強く。

私は陽希の激しいキスに溺れそうになりながらも、かろうじて残った理性で無理やりキスを終わらせた。

「ハル……撮影、時間…が」

「分ってる」

陽希は腕の力を緩めると、深く息を吐いた。

「……美知佳さん、俺に仕返ししたつもりでしょ。俺、セックスしてって言った訳じゃないのに」

低い声で囁く陽希のその瞳には、欲望が溢れていた。

「ハルなんて欲求不満になれば良い」

「……30分で戻るから、ここに居て。もう、そんな顔して外に出ないでね」

「そんな顔?」

「凄いやらしい顔してる」

陽希は私の唇の横に軽いキスを落とすと、立ち上がってテーブルの上のシャツを掴んだ。

私はそのシャツを羽織りながら部屋を出ていく、陽希の背中を見送った。


その後、きっちり30分で撮影を終わらせたハルが速攻で私を持ち帰り、朝まで寝かせてくれなかったのは言うまでもない。
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