黒き時の物語
想い
「唖人であるおぬしの首を
狙うのはやはり過去の悲劇から
じゃろう…気になるのは何故
クローズは狙われなくて
キルが狙われたのかじゃ…」
そうミラは同じ唖人である
クローズもではなく
キル一人を狙っていたのだ
「ジジイも俺達も知らない
何かがキルにはあるのか…?」
クローズは少し心配そうな
顔をしながらキルの方を見て
そう言った
「そんな顔すんなって
お前は狙われなかったんだ」
キルは笑顔でクローズに言った
「ミラは恐らく何処かの王国の
手先じゃろう…何処からか
唖人の情報を掴み狙ってきた…
骸骨達の襲撃に乗じて
キルを襲ったのじゃろう」
「つまり突然表れた異種の存在と
俺達唖人を狙う奴等
別の物だが狙われる事に
変わりはねえって事か」
キルな溜め息混じりに言った
「なあ、ジジイ…一つ聞くが
俺達以外にも唖人はいるのか?」
クローズはそう聞いた
それもそうだろう
この王国では唖人はキルと
クローズしかいないが
他の王国にもいて、
そいつらはどうしているのか
聞きいたいのだろう
「わしも詳しくは知らん…
知っておるのはおぬしら二人だけ」
「そうか…で、俺達に
どうしろって?」
クローズは少し俯き
改めて聞いた
「こんな話をした後じゃ…
無理な話なのはわかっておるが
異種の存在が攻めてきた以上
この王国の護衛を続けてもらいたい
それと同時に唖人について
キルが狙われる理由を
わしは調べてみる…」
国王はそう言って二人を見た
恐らく断られるだろう
そう思っている様子だ
「「わかった、まかせな」」
二人は笑顔でそう言って
席を立った
「っ…!?」
驚いた表情の国王に
キルはこう言った
「怒ってないって言えば嘘になるが
親もいなかった俺達を
拾って育ててくれたのはあんただ
力の扱い方もあんたが教えてくれた
もしあんたに拾われてなければ
それこそこの力を使って
悲劇を起こしてたかも知れない
だから感謝してんだ
そのあんたが頭を下げて
この王国を守ってくれと
言った…断る理由はないだろ」
国王は目を見開いていた
そうキルとクローズは
この王国に捨てられていたのだ
それを見つけた国王は
二人を育てたのだ
言うなれば父親のような存在なのだろう
だからこそジジイと呼び
タメ口で話す事が出来るのだろう
もちろんキルとクローズは
兄弟ではない
一緒に育ってきたのだから
兄弟と言っても間違いではないのだろうが
「それと…」
クローズは少し笑いながら
「あんたも唖人なんだろ?
俺達に力の使い方を教えて
くれたんだ…同じ唖人じゃ
なければ教えらんないだろ?
あんたみたいにいい唖人だって
いるんだ…キルみたいに
過去の悲劇引きずって命
狙ってくるってんなら
俺は戦うぜ」
と言った
「お見通しか…わしも唖人じゃよ…
そして二人を育て、信じた事は
間違いではなかった…」
国王の目にはうっすらと
涙が浮かんでいた
「ジジイは他の唖人や
それを狙う奴等の情報を頼む
王国は俺達にまかせてくれ」
言って二人は部屋を出た
国王は笑っていた
「異種の存在に唖人…
問題は山積みじゃが
信じて進もう
世界に悲劇をもたらす
唖人ではなく、救世主の
あの唖人のようにな…」