二重人格の彼
「昔からなのか?」
「いえ、中学2年の時からです」
「……なんで暗所恐怖症になったか教えてくれるか?」
本当は言いたくなかったけど、言おう。
「あたしは、今母子家庭なんです。けど、両親が離婚する前、父に暴力を振るわれていました」
今でも覚えてる。忘れられるわけ無い。
「中学2年に、いつもの様に暴力を振るわれていました。けど、1回父に連れ出され知らない街で監禁されました」
「狭い部屋で真っ暗で、その中でも暴力を振るわれ、首を絞められ殺されかけました」
「その拷問は、1週間続きました。弟が助けに来てくれたので。」
先輩は目を見開いて驚いていた。
そりゃそうだよね。監禁は虐待と一緒のようなもの。
それをあたしはされていた。
驚かない方が馬鹿だと思う。
……あたしは先輩に、友達にずっと言えなかったことがある。
あたしを助けてくれた陸でさえも。
「先輩、あたし嘘をついてました。あたし……」
「……」
「先輩が初めてじゃないんです」
「は?」
そう、先輩が初めての人じゃない。
先輩に初めて抱かれるとき、聞かれてあたしは頷いた。
けど、
「父に監禁されて4日目、父の友人にレイプされました」
「……ッ」
やっと隠してきたことを言えた。
その安堵に涙がどんどん溢れていく。
「先輩に抱かれるとき、汚いあたしが麻実さんの代わりなんかなっていいのかとか罪悪感でいっぱいで」
「神田……」
「何度も死にたいって思いました、レイプした父の友人は捕まりましたがあたしの傷は癒えることはありません、体の汚れならまだしもあれから暗いところと狭いところはダメになりました。」
ここまで言い終えたとき、資料室の明かりがついた。
抱きしめられていた体を離し、先輩を見つめた。
この際思っていた事全て言おう。
そして、先輩の元から離れよう。
「あたしは先輩のことが好きです」
「……は?お前、何言って」
「好きだから麻実さんの代わりになりましたし、麻実さんが生徒会に来なくていいと言われる日まで、ずっと生徒会に通いました」
自分でもびっくりだ。
あれほど嫌がってたのに、今じゃ嫌のいの字もない。
「あと、嫌がらせのことすみません。先輩のことが好きすぎて麻実さんが羨ましくてつい」
末永くお幸せに。
その言葉を笑って言い、あたしは資料室から出た。
なんであたしはまた嘘を言ったのだろう。
せっかく、長年誰にも言えなかったことを言えたのに。
……けど、麻実さんの嘘だって先輩がわかったとき、先輩は落ち込むだろう。
あたしはそんな先輩を見たくない。