恋の授業。
新学期の朝。
いつかホクロメガネに写真を撮ってもらった桜は、春の強風で寂しげな雰囲気だった。
ワタシはといえば…
あの日、周りの人達をセカセカしていると感じた速度で桜並木の下を歩いている。
頭の中には、今日知らされる新しいクラスとか担任とか、そんな事よりも…
ホクロメガネの事でいっぱいだった。
正しくは、ホクロメガネに会ったらまた何か言われるんじゃないか。
その時自分は冷静に対処できるのか…
それが不安で仕方がなかったんだ。
だけどワタシは怯まないと決めたし、逃げたと思われるのも嫌だから、いつもと同じ時間、同じ車両の列に並んだ。
あまりキョロキョロしてホクロメガネを探していると勘違いされてもしゃくに障るから、真っ直ぐ前だけを見て並ぶ。
…どうか、ホクロメガネに会いませんように……!
ドアが開くと一気に押し込まれてぎゅうぎゅうの車内で、150センチのワタシはすっぽりと隠れてしまう。
好都合だ。
チラッと周りを見てみたけど、それらしき人はいないようでホッとした。
万が一後ろ側にいたとしても、ワタシが振り向かなければいい話だ。
毎日こんなだったら、心臓が持たないよ…
こんなに緊張することなんて
今までなかったかもしれない。
いつだって、冷静でいられるように、自分の感情はコントロールしてきた。
それなのに、たったあれだけの出来事で
どうしちゃったんだろう……
終点に着くと、いつものように開いたドアから押し出される。
清々しさに大きく息を吸い春の匂いを感じながら、手に汗を握っていたことに気付いた。