恋の授業。



「森川はさぁ、もう確実にくー狙いじゃん?」



放課後、綾子と駅前のカフェに来ている。



「………」



「いやいやそこで『えーそんなことないってぇ!』とか要らないから。」



「言ってないし!」



黙り込んだワタシに笑いを提供してくれる綾子。



綾子とは中学の時からこのカフェで語ってきた。
と言ってもシビアな私たちだから、年頃の女子がするようなキャピキャピは皆無だった。





「くーはどうなのよ?」



…どうって……



「わかんない。ていうか、恋愛感情とかまだないよ‥」



ワタシは、いつも注文するウィンナーココアのクリームをスプーンですくいペロリと食べた。



「森川君が悪い人じゃないってことはわかってるけど…。でも、今は、それだけ。」



そう広くはない店内は、駅前という立地もあってテラス席も含めてほぼ満席だ。


静かに本を読む女性。
主婦のおしゃべり。
パソコンと睨めっこをするサラリーマン。


そんな人たちをぼんやり眺めながら、ウィンナーココアの生クリームをスプーンでかき混ぜて溶かす。



綾子はそれ以上何も聞いてこなかった。
昔から、不確かな気持ちにはやし立てて火を付けるようなことはしない。

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