心の交差点
「引きこもりなのに、ディズニーランドは行くの?甘やかしすぎだわ!」

一際声が大きくなった二人の横で、引きこもりの言葉を聞いたナオミは、心臓が痩せた体から飛びでそうになりながら聞いていた。

引きこもりをなんとかしたいから、楽しそうなところに連れて行って、外にでるきっかけを作っているのに、うちのタクヤも自分の興味のあることには出かけるようになったんだから、いいじゃないの。他人には見えない苦労があるのよ。

本当はそう返したかった。
しかし、言い返せば、自分の家族のことを根掘り葉掘り聞かれて、タクヤが引きこもりであることがわかってしまう。
そうなれば、完全に餌食になるのは目に見えていた。

ナオミ自身もこの生産性のない会話の集団から抜けたかった。
結婚後、専業主婦を続けていたナオミが初めてパートに出た日、有無を言わさず歓迎会と称して連れてこられてから、毎週この店で、食事をして帰るのが習慣になっていった。

本当は早く帰って家族のために夕食を作りたい、そう言えない自分のふがいなさに自分自身が嫌で、なかば諦めた状態で、いつもこの時間を過ごしていた。

「大学行かずに引きこもりして、一緒にディズニーランドに行くって、五人で東京まで行ったら、相当お金もかかるじゃない。旦那さんどんな仕事してるのかしら。」
「商社だって。出張が多くて子供が引きこもりになったのは、自分にも責任があると思っているみたい。だからお金はあるし、東京出張のときに合わせるようにしてるから、一人分は浮くんだって。」
「いいご身分ねえ」
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