心の交差点
他人の家の家計や教育まで口を出したくなる女たちは、どこにでもいるようだ。

同じ列に座っているので顔は見えないが、新聞記事の内容が頭に入らなくなるくらい大きな声で話されるので、シンジは新聞を読むのを諦め、鰻重の残りを掻き込んだ。

毎日営業で靴底はすり減っていて、妻からは新しいのを買うように言われているが、酒もタバコもギャンブルもせず、靴もスーツも作業着と割りきっているシンジにとっては、月に一度、蕎麦屋で鰻重定食を頼むのが唯一の楽しみだった。

妻はいつも友達と出かけていて、毎週この日はいつも夕食が遅くなる。
最初は食事を作ってくれる時間まで待っていたが、そのうち待つより外で食べたほうが妻も自分も楽ではないかと思うようになり、仕事が早く終わったときには、この店で食べるようにしていた。
とは言っても、妻が友達と食事をするようになったのは、つい数ヵ月前からの話だけれど。

あいつもようやく気分転換できる友達ができたんだ、いいことじゃないか。
シンジはそう思いながら、伝票を取って席を立った。

どんな人間が悪態をついているのやら、
うるさくて鰻の味が半減だと嫌味の視線を送っておこうと、三人組をちらっと見た。
< 7 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop