満たされる夜
♢second story
あの夜の課長と、仕事をしているときの課長は全然違う。
スーツをビシっと着こなしていて、パソコンを使うときには黒縁の細いフレームの眼鏡をかけているせいか、雰囲気までもが違うように思える。
今までだって毎日見ている姿なのに。
あの長い指に私は侵された。
一瞬、課長と目が合う。
顎で指示をされる。
“仕事をしろ”
別に見とれていたわけじゃない。
あの夜だけの、たった一夜のこと。
アドレスも知らないし、課長の家の場所も憶えてない。
だけどついチラチラと見てしまう。
黒い髪はいつも通りきちんとセットされていて、あの朝とは雰囲気が違う。
ストイックそうに見えるのに、仕事に対してはそうだけど、私を抱いたときはそうじゃなかった―――。
私の太ももの内側に残された、課長の痕。
本当に小さなその痕は、つけられたことにさえ気づかなかった。
キスマークをつけられるなんて、いつ以来だろうか。