満たされる夜
「何怒ってんだよ。冗談だろ」


モテて結婚してる奴のほうが偉いのか。
何も言わずにあっさり乗り換えて結婚したくせに。

こんな男と今でも続いている私が言えたことじゃないけど。


「それとも何かあった?伊丹さんと」


からかうようなその一言に、心臓の鼓動がドクン、となる。

それをごまかすように、グラスに残っていたビールを飲み干した。


「あったとしたら何だっていうの?」

遠藤をキッと睨みつける。
私と課長に何かあっても関係ない。

私がよほどキツい目をしていたのか、遠藤はバツが悪そうに目を逸らした。

いつもみたいに仕事の愚痴や、内容のない他愛のない話にはならなさそうだ。

原因は私。
この男に対して、いよいよ本当に何の感情もなくなったんだ。
今まできっと、気づかないふりをしていただけ。



それにあの夜。


女として抱かれることを、思い出してしまったから。
女の本能を呼び覚ますようなあの人を、知ってしまったから。
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