満たされる夜
「起こしたか」
「いえ。ついさっき起きました」
しかしどうして、私はよりにもよって伊丹課長と…。
伊丹課長は45歳で独身、仕事の鬼。
うちは精密機械メーカーで、私の課は細かい仕事が多く、パソコンとにらめっこの日々。
課長はただでさえ強面なのに、いつも眉間にシワが寄っていて更にこわい顔になる。
ミスにも厳しいけれど、その後のフォローがあるから嫌われはしない。でも煙たがられるタイプだし、女性社員はよく陰口を言っている。
「あんなだから今も独身なのよ」
「お見合いしても向こうから断られるタイプじゃない?」
とか。
本人の前では口が裂けても言えないくせに。
「田崎、朝になったら送ってやる」
「いえ、電車で帰ります」
壁にかかった時計は午前4時を示していた。
そうか…この時期はこの時間でも明るくなってくるんだ。