満たされる夜
♢fifth story―――満たされる夜
残業を終えて会社を出ると、私は課長の後をついて行った。
私がいると知りながら何も言わない。
振り向くこともないし、電車ではすぐ隣に立ったけれど、私を気にする素振りもなかった。
だから私もそのままついて行って、マンションのエントランスをくぐり抜け、エレベーターに乗った。
課長が言葉を発したのは鍵を開けるときになってからだった。
「お前、本気なのか」
「本気ですよ。前にも言いました」
課長に続いて玄関に入ると、パンプスを脱いでそのあとを追いかける。
リビングに入るのかと思ったら、課長は迷うことなく寝室のドアを開けた。