満たされる夜
「もう一度抱いてくれと言われたときは、正直揺らいだ。だけどお前にとってアレは、あの夜のあの場限りのことだろう。だから突き放した」


裸にされた私は、まじまじと見つめられる。

首筋にキスをされたかと思えば、一瞬チクリとした痛みが走る。


課長の痕―――。


「何であの日、俺なんかに抱かれた」


「酔ってた…最初は。愛されない自分が虚しかった。ずっと満たされたかった」


そう。満たされたかった。
自分を裏切った男といつまでもずるずると関係を続けても、いつも虚しかった。

体だけじゃなく、女としての私を求めてくれる課長が嬉しかった。


私の髪に、瞼に、頬に、そっと触れるだけのキスをしてくれる。



「俺は独りでいいと思って生きてきた。独りは楽だし、傷つくこともない。だけどあの夜、思い出した。誰かに触れたくなる気持ちを」
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