満たされる夜
経理課で用事を済ませたあと、課に戻ろうとエレベーターに向かっていたら、前から遠藤が歩いてきた。
営業部のエース。来年には子どもが生まれるというのに、この男にはまだ父親らしさが1ミリもない。
遠藤は私に向かって手を上げた。
社内ではどんな噂が立つか分からないから接触したくないのに…。
「よっ!めぐ、今夜は予定あんの?」
「アンタに関係ないでしょ。早く家帰って奥さん孝行しなさい」
営業は不況の今でもただでさえ接待やら忙しいのに、年末で更に忙しく出回っているらしい。
「分かってるって。伊丹さんとどこか行くのかなーと思って。あの人、そういうこと苦手そうだもんな」
遠藤にも課長と付き合っていることは言っていないのに、元カレだからなのかどうか…勘づいている。
出くわす度にちょこちょこ私たちのことに探りを入れてくる。
「忙しいからみんな残業よ。うちの課はそういうの関係ないんで」
イベントのときにはそれぞれの部署の上司が気を回して、定時で上がるところもある。