満たされる夜
みんなそれぞれに仕事を終わらせて、一人二人と帰っていく。
気がつけばいつかのように、残っているのは課長と私だけになってしまった。
伸びをしてから時計を見ると、すでに20時を回っている。
疲れたしお腹も空いたな…。
「課長、コーヒーでも飲みますか?」
静まり返ったオフィスは、離れた距離でも普通の声でじゅうぶん響く。
「いや、いい。仕事、終わったか?」
「一区切りついたところです」
課長は黒縁眼鏡を外すと、目の間をギュウギュウ揉んでいる。私もだけど、ずっとパソコンに向かっていると目の疲れが半端ない。
「それなら今日はもう終わりでいい。俺もすぐ終わらせるから、先に下で待っててくれないか」
課長は表情も変えずに、ぶっきらぼうに言う。
そんなこと言われると、私だって期待しちゃうんだけどな…。