満たされる夜



顔が痛いくらいの冷たい空気の中、私は自分から課長の手を握った。
この人は外では恥ずかしいらしく、自分からは手も繋いでくれない。


鬼の伊丹ですからね、とからかうと、お前はその鬼と付き合う物好きだと返された。

私は仕事から離れた課長の、どこか甘さを含む声が好きだ。




しゃべりながら歩いていると、東京スカイツリーが見えてきた。


上層はシャンパンゴールドに、下層はグリーンにライトアップされている。
冬の空にとてもよく映えている。




「綺麗…」




数ヶ月前まではこんなこと考えられなかったな…。

ずるずると遠藤と体の関係を続けていて、だけど部長の送別会で酔っ払ったことをキッカケに、課長との距離が近づいた。


私は今でも課長の過去を本人から聞いていないし、課長も何も言っていない。遠藤とのことも聞いてこない。


それはお互いが惹かれ合う前のことだからだと思う。





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