満たされる夜
「めぐみ」



私が見入っていると、隣から声が降ってきた。低いけど優しい声。

彼が穏やかな気持ちでいることが分かる。



「何?」


この後に及んで、課長の眉間にはシワが寄っている。

寒いから?


私はそこをグリグリしてやった。



「課長、眉間にシワばっかり作ると老けるから…」



課長が屈んだと思ったら、キスをされた。
ほんの一瞬、唇に触れただけ。

外でキスをしたことなんてないのに…。


私がビックリして固まっていると、課長は苦笑した。



「俺はつまらない男だよ。こういうイベント事も苦手だし…サプライズっていうのもやったことがない」


「これがサプライズです。どこに行くとも言わずに連れてきてくれて、キスもしてくれた」



私は課長の首に腕を回すと、背伸びをしてキスをした。



「課長、私のこと好き?」


一瞬、困ったような表情なる。

抱かれているときは聞かなくてもいつも言ってくれるけど、こういうときだからこそ女は態度だけじゃなく言葉で言われたい。
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