満たされる夜
「不倫なんてしてないで別れろ。まだ若いんだから、いくらでも男はいるだろう」


そうだね。そんなこと分かってる。
すっぱり別れられたら、こんなに虚しい気持ちにならないもの。


課長は片手でネクタイを緩めると、ワイシャツのボタンを2つ開ける。

いつの間にかミネラルウォーターを手にして、流し込むように飲んでいた。

どんどん、どんどん、流れ込んでいく。
上下する喉仏。
ほんの少し顔を出している髭。



「お水、ください」


「自分で取りに行け。冷蔵庫にある」


重たい体を起こすと、ふらふらと立ち上がる。

物が少なくて、片づいていて、広い部屋だなぁ。
月明かりだけがこの部屋を満たしている。


私は課長の手から飲みかけのペットボトルを取ると、そのまま口をつけた。
冷たい水がどんどん入ってくる。

目を見開いた課長が私の手首を握る。
大きな手。
男の人の手はこんなにゴツゴツしてたっけ?


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