満たされる夜
「おい、何やってるんだ」


「課長、眉間にシワ!良くないですよー。いっつも恐い顔して。仏頂面!」


私は自分で言っておきながら的確すぎて笑いながら、眉間のシワに手を伸ばす。



そのときだった。

握られたままの手首に力が込められる。
背の高い課長を見上げると、私をしっかりと見つめていた。
切れ長で目力が強い。


「無防備なことをするな。男が本気になったらどうなるかくらい分かるだろう」

低く響く声は、どこか甘さを感じる。
私の、女の本能に入り込んでくる。


「分かりますよ。課長、どうして私を家に連れて来たんですか?あの場に捨ててきてくれて良かったのに」


酔っ払った部下と、そんなに面倒見が良さそうには見えない課長。
そうだよ。私が倒れ込んだなら、見放すことも出来た。
タクシーに放り込んでくれたって良かった。
それなのにどうして?
< 8 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop