一夏の花


「虹なんて見たの、何年ぶりかなぁ」



 声が聞こえて、ぎくりとした。

 まさか私に話しかけているんじゃないだろうな、とおそるおそるあたりを見回す。



 いた。うつむいたまま目を泳がせれば、柵の傍に見える大きなスリッパ。大人の男だ。目が合わないようにそっと様子を窺うが、特に私を見ているような感じはしなかったので安心する。

 コミュニケーションは苦手だ。彼はただ虹のかかった空を見ていたのだった。まるでさっきまでの私と同じように。
< 23 / 86 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop