一夏の花
「虹なんて見たの、何年ぶりかなぁ」
声が聞こえて、ぎくりとした。
まさか私に話しかけているんじゃないだろうな、とおそるおそるあたりを見回す。
いた。うつむいたまま目を泳がせれば、柵の傍に見える大きなスリッパ。大人の男だ。目が合わないようにそっと様子を窺うが、特に私を見ているような感じはしなかったので安心する。
コミュニケーションは苦手だ。彼はただ虹のかかった空を見ていたのだった。まるでさっきまでの私と同じように。