バターリッチ・フィアンセ
この部屋に、四人は、ちょっと……いいえ、かなり狭い。
私はキッチンでアイスティーを作る昴さんのお手伝いをしながら、リビングの方にいる二人に目をやる。
琴絵お姉様は、私が初めてここへ来たときのように部屋中をキョロキョロ見渡していて、真澄くんは彼女の脇で、黙って姿勢よく立っている。
「――で? こんな狭い家になんでわざわざ来たんですか? ええと……琴絵さんでしたっけ」
ローテーブルに人数分のグラスを置きながら、昴さんが姉に尋ねた。
「……私はどこに座ればいいの?」
けれど姉はそれを無視して、気だるい調子でそう言う。
やっぱり最初は、それを疑問に思うわよね。
あとで、ちなみに寝室はロフトなのよと教えてあげようかしら。きっと、面白い反応をしてくれるわ。
「お姉様、この家にソファや椅子はないの。床に座って?」
「なんてこと! ……まあ、仕方ないわ。今日はね織絵、あなたのフィアンセに頼みがあって私はここへ来たの」
「……昴さんに?」
私が聞き返すと、姉は昴さんに向かってにっこり微笑んで見せた。
当の彼はというと、全く思い当たる節がないらしく、怪訝そうに眉根を寄せていた。
もちろん私も不思議でたまらない。
琴絵お姉様が昴さんに頼みたいことって一体……
「……サンドイッチ」
しばらくすると、昔から彼女が愛用しているシャネルのルージュの引かれた唇が、キラキラ輝きながらそんな言葉を発した。
「失敗しないサンドイッチの作り方を私に教えなさい」