バターリッチ・フィアンセ
教えなさい……って。
お姉様、それが人にものを頼む態度……?
彼女らしいと言えばらしいけれど、そもそもなぜサンドイッチなんか……
「――伊原、説明なさい」
お姉様が言うと、真澄くんが彼女に代わって、ことの経緯を説明してくれた。
昨夜姉は、大切な論文にかかりきりで家に帰ってからも自室にこもって仕事をする義兄のために、夜食を作ってあげたそうだ。(彼女が料理をしているところなんて今まで見たことがないから、たぶん、なにかの気まぐれで作りたくなっただけだと思う)
そしてその料理が、サンドイッチ。
机に向かいながらも片手で食べられるものがいいと、姉なりに気を遣ったらしい。
けれど、そのサンドイッチを食べた義兄は、半分も食べていないお皿を、姉に返しに来たのだそうだ。
そしてそこから喧嘩になって、自宅マンションを飛び出し……
実家の者にばれないようにと、たまたまお休みをとっていた真澄くんを呼び出して、ここまで来たということみたい。
「あんな侮辱は初めてだったわ。だから彼の鼻をあかしてやりたいのよ。とびきりおいしいサンドイッチを作れるようになって」
……なるほど。それで昴さんの所に来たというわけね。
サンドイッチならお店でも出しているし、そうでなくても料理上手な昴さんなら、きっと美味しく作るコツを知ってるはず。
けれど、面倒ごとは嫌いそうな彼が、素直に教えてくれるとも思えない……
そんな私の予想に反して、昴さんの言葉は親切な物だった。
「……琴絵さん、どうやって作ったのか一から教えてもらえる?」
今まで、壁に背中を預けて腕組みをしていた彼が、そう言って姉の方を見た。
「いいわ。私のどこがいけなかったのか、はっきり教えてちょうだい」
姉は意地になっているようで、明らかに料理をするのには向かない真っ白なワンピース姿で、昴さんとともにキッチンに立った。