バターリッチ・フィアンセ


「あー、まずパンだけど、食パンはやめた方がいいですよ」

「……どうして? サンドイッチと言えば食パンじゃない」

「まあそうですけど、あの柔らかい部分が水分を吸いやすいから、野菜を挟んだときにあまりいい食感とは言えないものが出来上がったりするんです。特に初心者が作ると」


昴さんは戸棚から小さなロールパンの袋を出してきて、お姉様に渡す。


「この大きさなら食べやすいし、見た目も可愛くできます。あとは、何を挟むか、ですけど……」

「昨日はオーソドックスなものしか作ってないわ。野菜とハムとチーズくらいの」

「じゃあ変り種も教えますよ。そうだな……今うちにある材料でできるのは、手作りの肉味噌とか……」



私は、キッチンで会話を弾ませる二人を見ながら思う。

……なんだか、昴さんと対等に話している琴絵お姉様が羨ましい。

私が同じことを教えてと言ったところで、あんな風に丁寧に教えてくれるかしら?


姉がサンドイッチを作るのは自分の大切な人のためだとわかっているのに、つまらない嫉妬に胸をちくちくと刺されているときだった。



「――織絵お嬢様。少し……いいですか?」



今まで、必要以上に口を開かなかった真澄くんに声を掛けられ、私は彼の方を振り返る。

よく考えたら、お休みの所をお姉様に無理矢理連れ出された彼も気の毒よね……しかも、こんな居心地の悪い場所に。


そんなことを思いながら真澄くんに近付くと、彼はキッチンの二人の目をしきりに気にしながら、小さな声で私に告げた。


「城戸さんに関して、まだ旦那様本人からは何も聞き出せていません。しかし、あれから僕なりに調査をしていて……妙なことがわかりました」


そういえば……真澄君は私のために、父に探りを入れてくれると言っていたんだった。

妙なことって、一体なに……?


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