バターリッチ・フィアンセ
「……じゃあ、昴さんは父にお金を払ってここを借りているの?」
「いえ……そういった契約はしていないようでした。つまり、旦那様はこの部屋や下の店を、無償で城戸さんにお貸ししていることになりますね」
「なんで、そんなこと……」
たとえば私が一人暮らしをしたいと言ったとして、父が部屋を提供してくれるというのならわかる。
だけど、昴さんは他人よ?
しかも、彼が開業したのはお見合いで私と出逢うよりずっと前であるはずだし……
考えれば考えるほど、思考の糸が絡まってくる。
「だから妙だと言ったんです。すみません、他のことが何もわかっていないのに、お嬢様を混乱させるような情報をお教えして……」
「ううん……いいの、ありがとう」
真澄くんにお礼を言いつつ、私は頭を悩ませることをやめられなかった。
そういえば、昴さんはお見合い以前から私のことを知っていたような素振りを見せたことがある。
そのことと、今回のことと……きっと何か関係があるんだわ。
「――ちょっと。そこで内緒バナシしてるお二人さん、邪魔だからどいて」
不意に、近くで昴さんの声がして私たちは二人そろってびくついてしまった。
両手にサンドイッチの乗ったお皿を持った昴さんが、怪訝そうに私たちを見比べる。
「……なにその反応。俺の悪口でも言ってたわけ?」
「い、いえ! 違います」
「お嬢様の言う通りです。……言いたいけど我慢しているんですから、僕は」
ま、真澄くん……! そんなの本人の前でいうことじゃ……!