バターリッチ・フィアンセ
またもや火花を散らしそうな二人の間で私が慌てていると、昴さんはフンと鼻を鳴らして言った。
「執事くんもなかなか正直になってきたねー。その方が面白いからいいけど」
「面白いとは心外ですが、以前より正直になることにしたのは確かです。僕はまだあなたを信用できないので」
「おー、怖い怖い」
この二人の会話はいつもハラハラする。
結局最後は昴さんがかわすような形で終わるからいいけれど、見ているこっちは気が気じゃないんだから……。
とりあえず大きな喧嘩にならずに済んでほっと胸を撫で下ろしていると、昴さんに続いて琴絵お姉様もキッチンから出てきた。
その手には、やっぱりサンドイッチの乗ったお皿。
「織絵、伊原! 一緒に味を見てちょうだい! 自信作よ!」
すっかり上機嫌の彼女を見て、私はふと思いつく。
……そうだ。今のうちに義兄に電話して、ここに来てもらおう。
昨夜の喧嘩から、こんなに美味しそうなサンドイッチを作れるようになった姉の姿を見たら、きっと仲直りができるはずだわ。
「すごく美味しそう! 私、洗面所で手を洗ってから来るわね」
さりげなくスマホを持ってバスルームの扉を開けると、私は義兄の携帯に早速かけてみた。
お仕事中かもしれないけど、もしそうならメールも打っておこう。
本当はできればすぐに、あのサンドイッチ、食べさせてあげたいのだけれど――――
呼び出し音が鳴る間、私は祈るように彼が出るのを待っていた。