バターリッチ・フィアンセ
しかし、仲直りを果たした姉夫婦と付添いの真澄くんは、“お騒がせしました”と早々に部屋を去ってしまったので、結局その場であれ以上の話を聞くことはできなかった。
義兄には会おうと思えばまた会える。今日のところはは諦めて、また次の機会に……
そう思えればよかったのだけど。
あの話以降明らかに口数が減り、キッチンで黙々と食器を片づける昴さんを見ていたら、私は黙っていることができなくなってしまった。
「ねえ……昴さん。さっきの、お義兄様が言ってた話ですけど……」
「ああ、あれ。他人のそら似って奴だろ」
「本当に……昴さんじゃないんですか?」
自分の中ではほとんど“嘘だ”と確信していたけれど、彼の反応を見たくてそう聞いた私。
するとシンクでガチャンと激しい音が鳴り、食器洗いを中断した彼が廊下の壁に私を追い詰めた。
「……俺の言うことが信じられない?」
また……あの、“昴さん”だ。
寒気がするような、暗い瞳。
私だって、信じたい……だけどそれ以上に、本当のあなたが知りたいの――。
「義兄の、父親の病院は……私の母が最期を迎えた場所です……」
私は言葉を選びながら、ぽつりぽつりと言う。
まだ、点と点は一本の線に繋がりそうにないけれど……義兄の話を聞いて一番に思ったのは、あのつらい夢のこと――。
「最近、その日のことをよく夢に見るんです。昴さんの所に来てから、もう二度も。今までは、そんなことなかったのに……」
神様なんているか知らないけれど、あれは誰かが私に何かを暗示しているような気がしてならない。
あの夜、私の知らないところで何かあって……
それに昴さんが関係しているような気がするのは、行き過ぎた妄想……?