バターリッチ・フィアンセ
……こんな形で、彼を責めるつもりではなかった。
でも、日ごとに……ううん、一秒ごとに膨らんでく昴さんへの気持ちが、私を小さな子どもみたいに、感情的にした。
いつもは私を思い通りに鳴かせる彼の手は、左胸に置かれたまま固まって動かない。
もう、嫌われてしまったかもしれない……そうしたら、婚約パーティーのこと、本当に断らなくちゃ……
ぐちゃぐちゃな頭の中で、そんなことを冷静に考えている自分がおかしくて、でも笑う元気もなくただ涙を流し続けているときだった。
突然、私の肩にコツンと昴さんの頭が乗っかり、くぐもった声が、かすかに聞こえた。
「あぁクソ……。
――――なんで、俺まで痛いわけ?」
そう言うと私から手を離し、Tシャツの胸元をぎゅっと握りしめた昴さん。
「すばるさ……」
「……ちょっと、外出てくる」
肩に乗っていた熱がふっと離れて行き、私は壁に背をもたれたままズルズルとその場に座り込んだ。
どこへ行くの……?
私を、一人にしないで……
「――仕込みまでには、戻るから」
最後まで私を振り返らなかった昴さんは、そう言い残すと玄関の扉を出て行った。
いっそう強くなった胸の痛みに、ひとりになった部屋で耐えるのはひどく寂しくて。
溢れてくる涙を拭うこともせず、私はしばらくそこでぼんやりと玄関の扉を見つめていた。