バターリッチ・フィアンセ
●心、さまよう
-side 城戸昴-
「ねーねー、アナタ一人?」
「アタシたちと一緒に遊ぼうよー」
家を飛び出してからあてもなく徘徊していた繁華街の片隅で、歩道の花壇をふちどる煉瓦に腰かけていた俺に声を掛けてきたのは、二人組の女。
露出度の高い服装を身に着け品のない話し方をする、いわゆる“ギャル”ってやつ。
化粧が濃くて年齢不詳の彼女らは俺を挟みこむように両脇を固め、カラーを繰り返したせいかぱさついた長い髪を揺らしながら、俺の腕に絡みつく。
「すっごいイケメンなのに、なんで一人なの?」
「遠くからずっと見てたけど、ケータイも見ないしただぼうっとしてるから、こういうの待ってるのかなーって思ったんだけど」
どちらに顔を傾けても避けられない、どぎつい香水の匂いに正直うんざりしたけど、俺はかすかに鼻で笑って呟く。
「……かもな」
まだ、織絵の待つ部屋に帰る勇気は出ない。
かといって、達郎たち以外に頼れる友人もいないから行くアテもない。
空を見上げればいつの間にか夜のとばりが下りていたが、明るい街の照明と濁った都会の空気が、星ひとつ見せてくれない。
……今の俺の瞳も、あんな風なんだろう。
「マジ? じゃあいこーよ、三人で楽しいことしに」
「絶対満足させてあげるし!」
織絵が見たら、絶対に軽蔑しそうな図だと思った。
……でも、それくらいの方がちょうどいいのかもな。
どうしてか俺のことを“優しいひとだ”と言い張る、あのお人好しのお嬢様の目を覚まさせるには。