バターリッチ・フィアンセ
両手で織絵の顔を包み込み、ふさいだ唇。
彼女の気持ちを無理矢理自分に向かせるためでも、自分の中に渦巻く葛藤や苛立ちを吐き出すためでもなく……
ただ目の前の彼女が愛しいと思いながら何度も重ねるキスは、甘く優しく、そして同時に切ないものだった。
俺がどうして織絵に近付いたのか、その理由を知ったら、お前はどうする?
きっとこんな風に、俺の腕の中で、とろけそうな表情を浮かべてくれることは、二度となくなる。
何より、今俺へとまっすぐ向いている純粋な愛までもが、真実が明るみに出た瞬間、すべて失われるんだろう。
――いつまで隠し通せるかわからない。
目障りな執事も何か探ってるみたいだし、織絵の姉の旦那はあの医者の息子だという。
きっと、織絵本人に真実が伝わる日はそう遠くない。
そうしたら俺は。
ちゃんと、身を引くから――。