バターリッチ・フィアンセ


それからの毎日、俺は憑き物が落ちたかのように、織絵と接していた。

偽りだったはずの織絵と交わされる新婚夫婦のようなやりとりは、いつの間にかとても温かく、俺にとってかけがえのない時間となっていたらしい。


「お風呂とご飯、どっち先にしますか?」

「……惜しい。それとも私? って言ってよそこは」

「冗談言ってると今日の昴さんのおかずが減ります」

「えー、じゃあ……風呂、ご飯、織絵ね」



――どうせ、すぐに終わる恋。

だったら短い蜜月を過ごすことを、俺は自分に許していいだろうか。

あんなに待ちわびていた復讐の機会を、こんな形で駄目にするなんてな。

でも、情けない自分と向き合うのは、もう少しあとで……織絵に失望されてからでも、遅くない。


 
「じゃあシャンプー入れといてくださいね? 昨夜もう空っぽでした」

「……俺の攻撃かわすの上手くなったな織絵」

「昴さんがワンパターンなんです」

「はは、そーかも」



他愛のない会話が、愛しくてたまらない。

こんな関係が永遠に続いてほしいと願ってしまう気持ちも、日に日に大きくなっている。


でも、それが叶わないのは自分のせい。

歪んだ目的で織絵に近づいた、俺が悪いんだ。


限りある幸せの時間を噛みしめるように、俺は毎日織絵に笑いかけながら、同時に胸を軋ませているのだった。


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