バターリッチ・フィアンセ
●永遠に愛されない
まだまだ日射しの強い九月初旬の昼間。
予定通り、店の定休日を使って三条家を訪れた私たちを出迎えたのは、真澄くんだった。
「――お帰りなさいませ、織絵お嬢様」
「ただいま」
「俺に挨拶は?」
「……ダイニングにお茶の準備が整っております」
「無視かよ」
……相変わらず彼と昴さんとは相性が悪いみたい。
だけど、もう正式に婚約することだし、これを機に二人も仲良くしてくれたらいいのにな……
そんなことを思いながら通されたダイニング。
二人並んで席に着くと真澄くんは部屋から去り、彼と入れ替わるように私の父が扉から現れると、昴さんがガタン、と音をたて椅子から立ち上がった。
「……お久しぶりです」
かしこまって頭を下げる彼に、父は“座りなさい”と手をかざしながら優しく微笑む。
「よく来てくれたね。二人に会うのは見合いの日以来か。うまくいっているようだと琴絵に聞いて、私も安心したよ」
「ええ、おかげさまでうまくいっているわ。お父様も元気そうでよかった。お姉様たちは?」
「あの二人は少し遅れるらしい」
そう言ってテーブルの一番端の定位置に座った父は、ティーカップを口に運んで一口紅茶を飲むと、私を見た。
「……なあ織絵、ちょっと城戸くんと二人で話させてくれないか?」
その声も笑顔も一見穏やかなもの。
けれど有無を言わさぬ迫力があって、私は椅子を引きながら尋ねた。
「……私には聞かせられない話?」
「ははは、そんなに心配しなくてもいい。男同士、結婚について色々話したいことがあるだけだ。終わったら、誰かに呼びに行かせるから」
「……わかったわ」