バターリッチ・フィアンセ
「――――やっぱり、僕には許せません」
「え……?」
許せ、ない……?
唐突になんの脈絡もないフレーズが飛び出したことに戸惑い、座ったままで真澄くんを見上げると、苦しげに眉根を寄せた彼が、私を見下ろしている。
「お嬢様は、今……城戸さんに愛されている実感がおありですか?」
「どうしたのよ、真澄くん……」
「答えて下さい」
尋問のような鋭い口調に、私はびくりと体を震わせた。
真澄くんが本気で怒っている。
でも、その原因は何?
思い当たることと言えば、やっぱり彼のことしか……
私が答えることで、真澄くんが次はどんな言葉を返してくるのかが怖くもあったけれど、私はありのままの気持ちを話した。
「……愛されて、いると思うわ。昴さんは、あまり気持ちを言葉にしない人ではあるけど……
それでも、小さな仕草や表情から、私はそう感じてる」
「……言葉では、一度も?」
……なんで、そんな聞き方をするの?
今日の真澄くんは少し意地悪だ。
確かに、“好きだ”とか“愛してる”とか、はっきり言われたことはない。だけど、そんなものがなくたって、いつも一緒に居れば、きちんと伝わっているわ。
昴さんが、私を大切に想ってくれていることは。
「ええ……そうね、言葉はなかったわ。だけど――」
「では、それが彼の答えです」
ぴしゃりと言い放った真澄くん。……どうしてそんなことがあなたにわかるの?
私と昴さんの生活を知りもしないで、勝手に決めつけるのはやめて――。
私は真澄くんに対して初めて怒りの感情を抱き、思わず彼を睨んだ。