バターリッチ・フィアンセ

「ええ。無断でお借りしてきました」


またそんな危険なことを……。

私は真澄君の行動に呆れながらも、黒い手帳から目が離せない。



「……それに何が書いてあるの」

「ご自分の目で確認なさった方がよいかと」

「意地悪ね」



私の中には二つの気持ちが揺れていた。素直にそれを見たいという気持ちと、見るのが怖いと言う気持ち。

だって、真澄くんの言葉を信じれば、そこには昴さんが私を愛してないという根拠が書かれているはず。

それを見て、私の心は耐えられるの……?


パンドラの箱を、開けるか否か。

私はしばらくスカートの裾をぎゅっとつかみ、考えあぐねていたけれど……



「――――真澄くん、見せて」



しばらくすると意を決して顔を上げた私。

黙って手帳を差し出してきた真澄君の手から、それを受け取る。



『知らない方が、織絵のためだ』



いつか昴さん自身にそう言われたことを思い出す。

あの時のような暗い瞳をした彼は、今は姿を消しているように見えるけれど、これから先もそうとは限らない。


心の奥底に、まだ眠っている痛みがあるなら……

私はそれを掬い上げて、本当の意味で彼のすべてを愛したい。


それがどんなにつらい事実だとしても……



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