バターリッチ・フィアンセ
おそるおそる指を滑らせて、無造作にページをめくってみた。
そこには日付と、父の文字で日記のようなものが書き綴ってあり、私は目を凝らしてその小さな文字を追う。
「これ……」
ドクン、と心臓が波打ち、すぐにその前後の数ページも確認した。
震える指を添えながら、その一文字一文字を読み込む度に、私の心に影が落ちていく。
相変わらず立ったままの真澄くんは、そんな私をただ黙って見つめていた。
「じゃあ、私と昴さんのお見合いは全部……?」
はらり。頬を冷たい涙が伝っていった。
次第に頭はがんがんと鳴り、胸は息苦しく、眩暈に似た症状にまで襲われる。
ソファの上で思わず体をふらつかせると、駆け寄った真澄くんが私を支えながら静かに横たえて、傍らに跪いて私の目を見つめた。
「……僕の言ったことが理解していただけましたか?」
返事をする代わりに、瞳の中が涙でいっぱいになった。
私の手をそっと握った真澄くんの手は、手袋をつけていてもあたたかくて。
その温もりに誘われるように、私は口を開き、とぎれとぎれの涙声で話した。
「私……永遠に、愛されない運命だったのね……」
今までの楽しい生活、彼との会話や触れ合い、そこに感じていた愛情。
その全部が真っ黒に塗りつぶされたような喪失感を味わった私は、思わず真澄くんの肩に抱きついて、その執事服を涙で濡らした。