バターリッチ・フィアンセ

「――はい」


扉の隙間から応対したのは、やはり伊原真澄。

まるで俺に部屋の中の状況を見られたくないかのように、伊原は最低限にしか扉を開けない。


俺はそこに手を掛けてぐっと力をこめたが、見た目に反してヤツは力が強く、織絵の姿を確認することができなかった。



「……何の真似だよ? 織絵呼びに来たんだけど」

「お嬢様は少しご気分が悪いそうで、お休みされています」



……嘘つけ。今日の織絵は朝から元気だった。

まさか、コイツが織絵に何かしたんじゃないだろうな?


「じゃあ心配だから顔を見せてくれ」

「……できません」

「なんだと?」


思わず声を荒げると、部屋の中から織絵の叫び声がした。



「――昴さん、助けて下さい!」


「お前、織絵に何を……」



一度伊原を鋭く睨みつけてから、俺はその体を無理矢理押し退けて部屋の中に飛び込む。

すると、ベッドの上で衣服を乱された織絵が、泣きながらこちらを見つめていた。



「織絵……」



まさか、本当にあの執事にやられたのか……?

織絵に駆け寄ってその体を抱き締めてやり、すぐに後ろを振り返ったがそこにヤツの姿はもうなかった。


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