バターリッチ・フィアンセ
●あなたを愛してるから


『その顔では、皆さんのもとへ戻ることはできそうにないですね……
この際あのような婚約者の方とは縁をお切りになって、何もかも忘れてみてはどうですか?』

『……そんなの、無理……っ』

『真実を知ってもなお、お嬢様は城戸さんを?』

『……愛、してる……そう、言ったら笑う……?』

『いいえ。……では、こうしましょう』



さめざめと泣き続ける私を、真澄くんは軽々と抱き上げるとベッドにふわりと寝かせた。

そして、嫌らしさのかけらもない動作で……まるで人形を着替えさせるかのように、私の服を淡々と乱していくと、こう言ったのだ。



『僕を悪者に仕立て上げてください。それで彼が本気で怒り、お嬢様を心配する様子を見せたなら……
僕は彼の中に、お嬢様への愛を認めます』

『どういう、こと……?』

『城戸さんと会ったのは数回ですが、旦那様の日記に書かれている“当時の彼”と、“今の彼”とでは、少し違うように思います。
たとえお嬢様に近づいたのが目的のためだけだったとしても……今の彼が、それだけで動いてるとは思えない』



真澄くんの言い方は回りくどくて、私にはすべて理解することはできなかった。

けれどもしかしたら、昴さんの中に私を想う気持ちが、ほんの少しでもあるかもしれないということ……?


そうでなくても、私の中に“彼と別れる”という選択肢は不思議と浮かばない。

昴さんが、過去の悲しい出来事に囚われて、私を捕まえておきたいならそれでもいい。

それで彼の気が済むなら。

少しでも心の救いになるなら。


彼が私を愛していなくても、私が彼を愛しているのだから。


――この時、私は心に決めたのだ。


何があっても、昴さんの側から離れることはしないと。


“復讐”――その対象としてでもいい。


どうかこの先も私を、あなたの一番近くにいさせてください……


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