バターリッチ・フィアンセ
「――もう、主役がなんで一番遅いの?」
「まさか実家でいちゃついてたんじゃないでしょうね」
ダイニングに戻ると、いつも通りのやかましい姉たちがいて、少しほっとした。
父と昴さんの確執を知ってしまった今、姉抜きの三人だけで会話をするのは気まずすぎる……そう、不安に思っていたから。
「ごめんなさい。少し部屋で休んでいたの」
平静を装って席に着くと、私と昴さんが来るのを見計らっていたかのように、テーブルに料理が並び始めた。
「――それじゃ、みんな揃ったところで、乾杯といこう」
父の声にならい、グラスを掲げると、私たちはシャンパンで乾杯をした。
会食が始まると、昴さんは姉たちの質問攻めに合い、食事もままならないようだったけれど、私はその様子に心を和まされ、さっきまでは元気のなかった食欲も回復してきた。
それでも時折ちくんと痛む胸を麻痺させたくて、普段は飲まないお酒を次々と胃に流し込み、途中からはずっとふわふわと雲の上に居るような気分だった。
「……ちょっと織絵、飲みすぎなんじゃないの?」
ちょうど向かい側に座っていた珠絵お姉様に聞かれた頃には、昼間だと言うのにとてつもない眠気に襲われていた。
「そうかも……しれないわ」
「今日はここへ泊っちゃえば? そんなフラフラのアンタ抱えて城戸さんだって帰れないわよ」
「……大丈夫よ、ね、昴さん?」
「うーん……もうちょい、しっかりしてくれれば」
「いやぁ、抱っこー」
お酒の力ってすごい。こんなことまで言えちゃうんだ。
素直に昴さんに甘えられる自分に驚きつつ、その勢いのまま隣の彼に抱きつく。
今日はお見合いの時のようなかっちりとしたスーツ姿だけれど、やっぱり昴さんからはいい香りがする。
甘くて、香ばしくて……
そして、胸の奥がきゅっと疼く、切ない香り。