バターリッチ・フィアンセ
私はリビングからバスルームの前へ移動し、擦りガラスの向こうを見つめた。
二人で暮らすようになってから新調した、淡い水玉模様のシャワーカーテンが扉の向こうで揺れている。
「昴さん……ちょっといいですか?」
「――なに? トイレ?」
昴さんはのんびりとした口調で、カーテンの向こうから私に問いかける。
「違います……どうしても、話したいことがあって――――」
それはもちろん、あなたの本音。
――もう待てないの。だってパーティーはもうすぐなのよ?
二人の気持ちがすれ違ったまま、“結婚します”と大勢に披露したって……
きっと、むなしいだけだわ。
しばらくすると、急いでシャワーを浴び終えてくれたらしい昴さんが、腰にタオルを巻いて扉から出てきた。
「……どうしたの。あ、ごめん、もしかして本当は先に入りたかったとか?」
「違います……」
「……じゃあ何? あーもしかして風呂でシたかったの?」
……久しぶりに聞いた。昴さんが、そういう上辺だけの軽い発言をするの。
彼がそうするのは、何か聞かれたくないことがあるとき。
もうひと月余りずっと一緒に暮らしているんだもの。それくらいのことがわからないほど、私は馬鹿じゃない――……